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Mountain fishing and Higuma countermeasure
釣り人の常識と沢登りの常識
 北海道でいつも感じることは、ヒグマについて釣り人の常識と沢登りの常識は180度違うということである。
 まず、私が驚いたのは、熊鈴を買うために立ち寄った釣具屋の店主の言葉だ。

北海道の渓流釣りは、沢にキャンプしないのが鉄則だ。ヒグマのテリトリーにキャンプすることは、わざわざヒグマを誘き寄せるようなものだ。牧場にでも許可を得て、キャンプしたらどうか。」

 この言葉は、日高の源流にキャンプする度に脳裏をかすめ、いつも「ヒグマの恐怖とイワナの誘惑」を天秤にかけるような葛藤を味わうはめになった。

 でも、結果としてヒグマの危険なシグナルに対して敏感になったことは良い教訓だった。

 北海道日高の源流へ5年間通ったが、山奥にテントを張る釣り人を一度も見たことはないし、その痕跡も全く見られなかった。
 釣具屋の店主の言葉は、やっぱり北海道の渓流釣りの常識だった

 一方、登山や沢登りの人たちはどうだろうか。
 日高山脈の山々には、登山道がほとんどなく、大部分は、沢を歩き滝をよじ登って山頂に達する原始の山である。
 私は、札内川やヌビナイ川の源流で沢を登るパーティに何度も出会った。
 もちろん、彼らは、ヒグマのテリトリーの真っ只中でキャンプしている。

 
中には、熊鈴を付けていない沢屋グループもいて「ヒグマに吼えられ、慌てて笛を吹きながら下ってきた」という人もいた。
 北海道の沢をくまなく歩いているベテランは、こともなげに言った。

 「ヒグマには何度も会っているが、向こうから逃げてくれる。恐いのは、親子の熊と下界に近い残飯を漁っている熊だ。深山にいるボス熊は、最も安全だ」と。

 これは、私の長年の疑問を吹き飛ばしてくれた。
 釣り人たちの常識は、無用なトラブルを避ける最良の方法かも知れないが、登山や沢登りの人たちにとっては、決して常識ではない点に注目してほしい。
北海道の山と渓谷は、危険な場所なのか?
 北海道自然保護協会が発行する「山と私たち」によれば「人によっては、ヒグマやスズメバチのすむ山には行きたくないと言い、逆にある人は、ヒグマなどが生息している山に入り込む時の緊張感こそワイルドの証明だという。

 ・・・山は危険な場所などでは決してなく、動物との好ましい付き合い方を身につける場と考えたらどうだろう。人間の社会には、車をはじめとした種々の危険が氾濫しているのに比べれば、山におけるリスクなど問題にならないほど小さいと思ってよいだろう。

 登山道やキャンプ場の周辺にヒグマが姿を現したら、・・・それを生き物が発する危険なシグナルと受け止める余裕こそ山では望まれる」

 谷の奥に入れば入るほど、確かにヒグマの密度は高くなる。
 それがイコール危険度が増すように錯覚するが、現実は決してそうではない。

 熊鈴などで人間の存在を知らせながら歩けば、ほとんどヒグマの方から退散してくれる。
 ヒグマの事故は、突然起こるものではなく、人間のモラルと適正な対応で十分防ぐことができるのだ。
 
そして何より、原始の山と渓谷があるこそ、野生のヒグマもいる。これは、素晴らしいことではないか。

 「北海道ではエゾイワナがよく釣れる沢には『ヒグマ出没中』などという看板が麗々しく掲げられているし、広島でも高価なキノコの香茸が採れる雑木林に「クマが出ていて危険」などと掲示することで恐怖心をあおっている。
 しかし、クマは人間と違って、偽りの伝言は残さない。クマに会いたい人も会いたくない人も、クマたちの伝言をよく読みとって、山野でのフィールドワークを楽しんでほしい」(「山でクマに会う方法」米田一彦)
ヒグマ対策その1:ヒグマ情報を確認する。
 

 最も危険なヒグマは、人間の味を覚えた人喰い熊残飯に餌づいた熊、手負いの熊、子連れの熊である。
 こうした危険な熊が出没していないかどうか、必ず確認することが必要だ。

 現地の営林署や役場、警察などに問い合わせるといいだろう。
 もし、そうした情報をキャッチしたら、迷わず遡行先を変更することだ。
 無理に決行することは、自殺行為である。
ヒグマ対策その2:残飯やゴミを捨てるな!
 山や谷で残飯やゴミを捨てない、ということは最低限のマナーだが、北海道では、絶対的な掟である。
 残飯の味を覚えたヒグマは、人間の存在をサッチすると近づき、無用なトラブルに巻き込まれる危険度が格段に高くなる。

 さらに、トラブルを起こしたヒグマは、射殺されてしまう。
 人間の愚かな行為によって、何の罪もないヒグマが殺されてしまうのだ。

 ヒグマと人間の共生を願うのなら、決して残飯やゴミは捨てないことだ。
ヒグマ対策その3:積極的な自衛対策と装備
@.熊鈴・・・ヒグマのテリトリーに入る時は、自分の存在を知らせることが第一。
 
ヒグマは、聴覚、臭覚が優れているから、ほとんどこれで防止できる。
 ヒグマ用としてはできるだけ音が大きく鋭い音が出る3連の鈴を使っている。
 でも価格は6,000円と高いのが難点。
 もちろん、1,000〜4,500円程度のお手頃な熊鈴もあるので、必ず携帯することを忘れずに!

A.・・・渓流では、流れの音や滝の音で鈴の音がかき消されてしまう。
 釣りに夢中になる余り、ポイントに立ち止まっていると、肝心の鈴も鳴らない。
 こんな時、笛が役に立つ。
 ヒグマは、笛のような高周波の音に敏感に反応する。
 熊の気配を感じたときは、笛と熊鈴を鳴らすのもいいだろう。
 さらに仲間との連絡用にも使えるから、常時携帯すべきだ。

B.熊撃退スプレー・・・万が一襲われた時は、これを使うのが有効。
 成分はトウガラシだが、スプレーを浴びた熊は激痛に襲われ逃走するという。
 効果は20分ほどで、熊と人間にも無害というスグレモノだ。

 ただし、熊が5m程度まで接近し、かつ最も敏感な鼻をめがけて正確に発射しなければ効果は期待できない。
 巨大なヒグマが襲ってきた場合、果たしてこんなに冷静に対応できるだろうか。
 万が一を想定し、イメージトレーニングを積んでおくことをお奨めしたい。
 
熊撃退スプレーは、登山用品店で手に入る。
 噴射時間が約5秒、距離7〜9m。本体9,200円+専用ホルスター2,800〜3,000円。
 ちょっと高価だが、これなくしてヒグマのテリトリーには入り込めない。
 有効期間は、製造から3年とのこと。
 1回も使っていないのに、今年は新しく新調せざるを得なかった。

C.山刀・・・熊撃退スプレーが失敗したら、これで戦うしかない。
 これは最後の手段だ。私は、白神のSマタギから戴いた山刀を大切に使っている。
 秋田では、阿仁町、五城目町の山刀が有名。

D.爆竹・・・危険なヒグマと出会った場合、着火した爆竹を投げて威嚇すると効果があるという。
 しかし、冷静なヒグマを興奮させることもあるので、あくまで最終手段と考えた方がよい。
 私は、使用したことはないが、常時ポケットの中に忍ばせている。
 ただし、水に濡れるといざという時に使えないのでライターと爆竹を防水パッキングすることを忘れずに。
ヒグマ対策その4:万一ヒグマと遭遇した場合の対策
 ヒグマとの安全距離は、50m以上と言われている。
 その安全臨海距離内で不幸にもヒグマと遭遇した場合、一体どうすればよいのだろうか。

第1段階 背を向けたり、走って逃げるのは自殺行為。

 走って逃げると必ず襲ってくる確率が高い。
 ヒグマは時速60キロのスピードで走ることができるという。
 熊より早く走ることは不可能なだけでなく、走るものを追いかける強い習性を持っている。
 仲間がいる場合は、全員集結しヒグマと対峙すること。
 一人でも逃げれば、全員を危険に陥れることになるから、そうした場合を想定し、パーティ全員の意思統一が必要
だ。
 「何してんのお前」とか、熊に話しかけ、お互いに冷静になるよう努め、静かに熊から離れる。危険な熊でない限り、人間に気づいたらほとんど向こうから逃げ去ってくれる。

第2段階 接近してきたら

 「コラ、コラ」などと大声で熊を威嚇しながらヒグマから離れる。
 絶対に走って逃げないこと。

第3段階 ヒグマが立ち上がったり、体をこごめ狙ってきたら

 食べ物を持ち少しづつ投げる、あるいは小枝や小石を拾ってヒグマの方に投げ、気をそらしながら距離を稼ぐ

4段階 それでもなお執拗に接近してきたら

 死んだふりは自殺行為。格闘することを決意
 ナタがあればそれに勝るものはない。
 大声でヒグマを威嚇し、ナタや棒切れを持ち、立木を挟み、対峙する。

5段階 襲ってきたらどうするか

 襲ってくるクマに対して、クマ撃退スプレーを使用するのが最も効果的。
 
腰に下げている熊撃退スプレーを取り出し、ガードのキャップを外して構える。
 距離が5m程度に接近してきたら、熊の鼻をめがけて発射する。
 発射時間は約5秒。

 熊撃退スプレーがない場合は、山刀で戦う以外に助かる方法はない。
 ひるまずナタで叩きつけること
 ひるんで逃げることが多いが、無抵抗は殺されるだけ。
 しかし、実際に人を襲うヒグマはごく稀であり、必要以上に怖がる必要はない。
 ナタは刃渡り20〜30cmの細身のものがよい。
 過去の死亡事故の分析では、ナタで抵抗すれば助かった事件が多い。

※米田一彦さんは、ナタで中途半端に反撃すると、かえって逆上する恐れがあると警告している。
 出会ってしまったら、刺激を与えないことが基本だという。

 アメリカの野外活動手引書は、「地面に伏せ、両手で首をガードし、クマが立ち去るのを待つ」と教えている。
 ただし、最悪の場合は足ぐらいかまれるだろう。
ヒグマ対策その5:源流にキャンプする場合の対策
 ヒグマのテリトリーでもある沢にキャンプする場合は、細心の注意が必要である。
 ヒグマの痕跡のある場所では絶対にキャンプしないこと。
 特にテン場になりやすい河原は、熊の足跡や糞、熊の好物もあるので、注意が必要だ。

 まず、テン場を見つけたら、周囲をくまなく調査し、安全を確認すること。
 ゴルジュの中は、最も安全だが、増水した場合に危険である。
 長い函の始点や終点は、快適さに欠けるが、熊の痕跡はほとんどなく安全な地帯だと言えるだろう。

キャンプ地での注意点は
@.食料は、二重の袋にパッキングし、決して匂いを発散させないこと。
A.山地での食料の不始末は厳禁。
 食べ残しを放置することは、ヒグマを近づける原因をつくることになる。


B.生ゴミは、土の中へ埋めても匂いが残るので効果はない。
 ザックに詰めて持ち帰ること。
C.食料は、テントの中に入れず、ヒグマが手の届かない木に吊るすか、100m以上テントから離す。

D.ヒグマの活動時間帯は一定していないが、一般的に早朝、夕方に活発に活動すると言われている。
 この時間帯での行動を避ければ、遭遇の確率は低くなる。
ヒグマ対策その6:その他の対策
@.ヒグマのテリトリーに入る時は、単独行を避け、グループで行動すること。
 その場合、決してバラバラにならないよう注意が必要だ。

A.熊の気配を感じたら、タバコを吸うのも良いらしい。
 熊は、特に匂いに敏感で、タバコや発煙筒の煙、火薬の匂いを嫌う。
 ただし、いたずらに発煙筒や爆竹などで刺激すると、逆効果となる場合があるので注意が必要だ。

B.雨降りや霧の深い日、強風・・・さらに悪天候になる前は、日中でも活動するので、特に慎重な行動が求められる。
熊撃退スプレーの効果は?
野生の熊に対する効果については、アウトバック代表 藤村正樹さんのコメントを掲載します。

 「「クマ避けスプレー」、「熊撃退スプレー」というネーミングも私が考案したもので、国内で「熊撃退スプレー」と言えば、カウンターアソールトを指します。
 カウンターアソールト(Counter Assault)は他の護身スプレーと異なり、はじめから「クマ(グリズリーベア・ベア)を追い払うこと」を目的として開発された、世界で初めての熊撃退スプレーです。
 商品化される前に300頭以上のクマに実際に実験され、その効果はモンタナ大学のグリズリーベア研究班(リーダーはモンタナ大学の名誉教授・チャールズ・ジョンケル博士)が確認し、学会などで公式に発表しています。
 その後改良が加えられ、効果はさらにアップしています。
 その実績が米国政府に高 く評価され、米国の製造元は米国政府から研究助成金を昨年からもらっているほどです。
 国内においても、のぼりべつクマ牧場や秋田県阿仁町熊牧場などでヒグマやツキノワグマに対する実験が行われ、効果が確かめられ、学会などでも発表されています。
 また、日本ツキノワグマ研究所代表の米田一彦氏や、山形県出身の冒険家・大場満郎氏、国際的な登山家・ラインホルト・メスナー氏も、ツキノワグマやホッキョクグマに襲われたときに、カウンターアソールトでそれらのクマを撃退し、そのことを彼らの著作物などで既に発表しております。
 先月、久しぶりに発射実験を行いました。
 その結果、噴射時間が約5秒、距離7〜15mでした。
 風の影響もあり、約15メートル離れた場所から、発射の瞬間を正面で撮影したときに、カメラマンが唐辛子ガスを浴び、しばらく苦悶してしまいました」
  詳細はhttp://outback.cup.com/

■熊研究家・米田一彦さんの評価

「クマ撃退スプレーは、実際に逆上したクマを撃退することができる。
 ・・・効果は絶大で、これを浴びるとクマが大声で泣くほどだ。
 人間も一緒に浴びると、3,4時間は人間活動ができない。
 ただし、スプレーは5mまでしか届かず、連続なら約5秒間しか出ない。
 クマが射程距離に入るまで待ち、顔面に命中させるには、かなりの冷静さが必要だ」
 「クマの目には、絶滅へ向かっている悲しい光がある。
 あなたが初めからクマの置かれている現実から目をそらし、話を受け入れず、発信しないなら、来世紀には起こるクマの絶滅へ荷担したのと同じことだ。

 ・・・わが子を愛するように、この命の織物を愛してほしい。
 クマは森の隣人ではないか。

 ・・・あなたがもし山でクマに出会ったとき『あっ、クマだ』と、ただそれだけを言い、当然のことのように通り過ぎる日を願っている。」

(「山でクマに会う方法」あとがきより抜粋)
参 考 文 献

「ヒグマ 北海道の自然」(北海道新聞社)
「山でクマに会う方法」(山と渓谷社・米田一彦)
「ヒグマの常識」北海道の釣り総合誌「ノースアングラー」1999.SummerVol.5

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